自然に開かれる木造り
幡ヶ谷の家
敷地は都心に近く、前面道路は幅員4m以下と狭いうえに交通量もかなりのものです。道路以外の三方は隣家がせまっており、プライバシーの確保に気を遣う状況です。西側道路の反対側には高さ2mほどの万年塀が続いており、視線が抜けるところがありません。
これらの課題とご要望を解決するには、周囲に対しては閉じつつ外部に開ける形が理想でした。そこで出入口以外の敷地四辺を部屋で囲み、内部側に庭を設けた中庭型プランとしました。中庭型の住まいは周囲の環境をコントロールしやすく、防音効果やプライバシーの確保に大変優れています。
プラン上のポイントは奥に進むほど、上階に行くほどプライバシーがより守られ、同時に開放的になっていくことです。アクセスと作業しやすさの観点から1階道路側に仕事場を計画しました。中央から玄関にアプローチしますが、仕事場から見えるためセキュリティ上も安心です。駐車場や予備室は将来いろいろな用途に使うこともできます。
2階への階段を上がればLDKの大空間と、それにつながる開放的な中庭が目の前に広がります。中庭のバルコニーには段差なくフラットにつながるため使いやすく、回廊型になっているのでワンちゃんたちが何周でも走れます。1階では塀が続いていた西側道路の反対側ですが、2階では視線を遮るものがなく遠くには富士山が望めます。浴室や洗面脱衣室も見られる心配がないため、大きな窓で中庭に気持ちよく開いています。キッチンから水廻り、中庭のバルコニーはぐるぐる回れる動線のため、家事のしやすさは抜群です。
2階の中庭にはLDKや子供室、洗面脱衣室などが大きな窓を通してつなげられ、体感的な広がりは60畳以上にもなります。光や風が導かれる中庭を軸とする住まいは、自然を内部に取りこみつつ豊かな場面を日々演出してくれます。
幡ヶ谷の家
建築概要
所在地 : 東京都渋谷区
構 造 : 木造2階建
敷地面積 : 164.61㎡/49.79坪
建築面積 : 92.35㎡/27.93坪
法延床面積: 130.63㎡/39.51坪
生活と環境に合わせた木組み空間
幡ヶ谷の家
1 / 6
2 / 6
3 / 6
4 / 6
5 / 6
6 / 6
都心の設計で悩ましいのはどんな時も法規斜線制限です。しかし幡ヶ谷の家ではその不利な条件を逆手にとった形をつくりました。一番高さを抑えなければいけない部分から、ご要望にもあった三寸勾配で敷地目いっぱい屋根を伸ばします。結果LDKは屋根勾配なりの天井となり、南の空まで伸びやかに上昇する大空間となりました。この空間をより美しく魅せてくれるのが、同じ方向性で木組みされた登り梁と垂木それを支える柱と梁です。
大きな容積を持つ空間の場合には、木をどれくらい使用するかで印象が大きく変わります。LDKに関しては大らかさをつくりたかったため、柱の間隔も広めに表してバランスをとりました。屋根を支える垂木の寸法を抑えているのも、しなやかで風雅な雰囲気にしたかったためです。
道路側の建物ボリュームは2つに分割して、回廊屋根で繋いでいます。分割した理由は道路側の斜線制限回避と建物が街並みを圧迫しないことです。回廊屋根でつないだのは、構造的安定のためです。
最も重視する空間をベースに、柔軟に他のデザインとの調和を図っていきます。屋根ボリュームは3つに分けられた形になりますが、これが心地よい住環境をつくるための勘所でもありました。屋根が一番高くなるLDKの高窓からは光が導かれ、風が抜けます。水廻りの屋根高さも抑えているため、LDKと子供室へ陽ざしが入りやすいですし、圧迫感も低減します。これによって中庭も明るくなり、空間的なゆとりもうまれます。
プランに合わせた木組みと形を実現するには、計画段階からの構造検討が欠かせません。幡ヶ谷の家でも構造事務所と工務店、プレカット会社と協働でベストな木組みを求めて、何度も打合せを重ねました。予期せぬ接合状況や金物が見えてしまうことをさけ、納期やコスト、施工のバランスをとることが木組みをうまくデザインするポイントです。
様々なご要望をいただき条件があるからこそ、その場所にしかない個性的な形と木組みが物語とともに表れて、住まいを過ごしやすく美しくしてくれると思います。
住まいに風格と美しさをもたらす木の性質
幡ヶ谷の家
1 / 6
2 / 6
3 / 6
4 / 6
5 / 6
6 / 6
住まいの印象を優しく、洗練された表情に昇華させてくれるのはなんといっても木製建具です。素材感に加え、高い自由度やデザインも大きな魅力です。
外観上大きな印象を与えるのは木製格子連続引き戸です。仕事場と駐車場に設けられたこの建具は、フルオープンできるため使用上とても便利です。格子は外から中は見えづらいのですが、中から外は見えやすいという特性があります。街と住まいを柔らかく仕切りながらもつなげてくれる、日本伝統建築が生んだ秀逸なデザインです。
玄関の顔ともなるFIX窓を組み合わせた木製開き戸は、その自由度をいかしてポーチ部のコーナーと軒天にぴったり納まっています。玄関内部にはいると、そこにも格子の引き込み戸があります。来客者が来ても慌てることなく、よりプライベートな場所を区切れます。
内部では他の木製建具も天井や壁面に隙間なく、家具、収納とともに納められて空間全体にバランスのよさがうまれます。
断熱性能に優れたアルミ樹脂複合サッシは、内部側に木目を選択して住まいに素材の統一感をつくっています。木製建具やサッシは要所で開いたときに、視界から消えるように設計しています。部屋同士や中と外の境界で目に入るものが少ないほど、空間が一体的につながっているよう感じるためです。
スギ、ヒノキを使用しないという特徴的なご要望もありました。そこで木材業者やプレカット会社と打合せて、樹種を検討していきました。化粧梁としては強度もあるベイマツが早めに決まりました。それに合わせる柱ですがクリやピーラー等は特性や相性から難しく、集成材のマツを採用することにしました。板目は室内側に向けて、無垢材の表情に近くなるよう配慮しています。
建具や家具、収納をディテールに留意しながら、住まいに納めていくことが外観と内部空間の細部の美しさを決定します。信頼できる工務店とともに住まいをつくっていくことは、時に予想を超える瀟洒な建築が生まれることにもなるでしょう。